松任谷正隆 DEAR PARTNER ゲスト:アンジャッシュ渡部建

TOKYO FM 松任谷正隆 DEAR PARTNER 2012年9月2日放送 ゲスト:アンジャッシュ渡部建


アンジャッシュ渡部さんが語った、お笑い、そしてバラエティ番組についての話がなかなか興味深かったので書き起こし。(※勝手に読みやすいようにしているので話の順番通りではない部分があります)

といっても番組サイトには簡潔にまとめてあるのでそっちを読んだ方がいいかもしれませんw
三菱UFJニコスpresents 松任谷正隆 DEAR PARTNER




◆カットされるという事は芯食った発言をしていない

自らの仕事は「何でも屋」であり、また、よく「制作の犬」と悪口を言われるという渡部。
2、3年前から求められるようになったその立ち位置を「使いやすい局アナ」と表現する。
ではそれ以前はどうだったのか?

渡 部:最初はコントをやって世に出さしていただいて、で、ネタ番組に出るじゃないですか。そういう事してなんかこう、ポンッて世間に出ると一通りバラエティに1周させていただけるんですよね。あの番組に呼んでもらう、この番組に呼んでもらう、って。そこに爪痕を残せないメンバーは、もう2回(目)呼ばれなくて結構暇になっちゃったりするんですよね。で、僕らアンジャッシュも全くそのパターンで、ネタでちょっと評価されて世間に出さしていただいたんですけど、バラエティ全部失敗して。

松任谷:渡部さんがアンジャッシュを結成して、それは大学の時?

渡 部:えー、そうですね。大学、はい。

松任谷:番組を一通り回ったっていうのは大体いつ頃?

渡 部:えーっとね、1993年に結成して、1周したのは2005年とか6年ぐらいなんですよね。

松任谷:結構時間かけて1周したんだ。

渡 部:一通りチャンス、打席はね、回ってくるんですね。ちょっとそう、ネタでどんどん出ると。それをしくじりまして我々は。

松任谷:その“しくじる”っていうのがどういう…

渡 部:結果が残せないんですよね。

松任谷:結果はどういうふうに現れるわけ?

渡 部:番組に呼ばれて、もう簡単に言うとちゃんとオンエアに残る面白い事言えてなかったんですよね。

松任谷:カットされたって事?

中 井:じゃあ編集で全然出てこないんだ。

渡 部:カットもそうだし、でも要はカットされるという事は、芯食った発言してないんですよね、結局。番組のいわゆる演出意図に沿った発言をしてないんですよ。だから面白くても面白くなくても残らなきゃいけない中、そういうの分かってなかったり。あと単純にみんなのスピードについて行けなかったりとか。あとはもう、僕も相方もパッと見どこをイジったらいいか分からないし、普通なんですよ。

中 井:見た目がね、イジるっていう感じじゃないですもんね。

渡 部:かといってモノマネとか1発ギャグがあるわけでもないし。「何かやってよ」って言われても普段シチュエーションコントっていう、なんか時間かかる事やってるんで瞬発力もないし、かといってトークも上手くないし、っていうのでもう呼ばれなくなっていくんですよ。見事なまでに。

松任谷:あの、ボケとツッコミっていうのは最初から意識してた?

渡 部:う〜ん、そうですね、意識というかまぁ今となっちゃ中身もそうなんですけど、当時は笑いを取る上での役やってたんですけど、そうですね、僕はやっぱり非常識な事言ってきた人生じゃないので。

◆情報を持っておけば無視出来ない

バラエティ番組を1周する間に結果を残せなかったアンジャッシュ
どう打開していったのか?

渡 部:どうしよう?ってなった時に、得意な事ってなんだろう?ってなったらちょっと情報性を持ってる事を言ったりとか、なんかちょっと「プレゼンさせたら渡部は昨日もらった資料なのに10年前から知った顔してしゃべれるから」というか…

中 井:正に局アナだ(笑)広く浅〜い感じ、こう。

渡 部:そうですね。だからもう世間にうっすらバレかけてるんですけど、でもそこもまたお笑いなんでツッコんでいただけるじゃないですか?

中 井:そうですね。

渡 部:だからもうね、“インストール芸”ですね。ほんとに。前日にもらった物を取り込んで、さぞそれっぽく話して、もう終わったらパッと消去しちゃうような。そういう考え方をガラッと変えたのが、もしかしてちょっと転機になってるかもしれないですね。

その他に資格を取ったり、人が興味をもっている事を勉強して情報を集め、それを自ら発信していく事でだんだんテレビに呼んでもらえたり仕事につながっていったとのこと。
渡部さん曰く「情報を持っておけば無視出来ない」
相方の児嶋さんについては特に語らずw


◆ざまあみろ!

松任谷:お笑いっていう、そのまぁアートというかエンターテイメントというか、って渡部さんにとってどういう感じ?

渡 部:う〜ん、やっぱりあの自分で考えて、自分で演じれて、その時間を貰えるって凄い事だなって。特にテレビをやってると。今なかなか無いじゃないですか?情報で、ほんとにその人の情報が届くのって、いろんな雑味が…特にテレビとメディアある中、コントだけはずっと聖域というか。

松任谷:ほぅ〜。

渡 部:ほんとに自分が思った事を表現できる感じですかね。

松任谷:僕の世代から見ると、お笑いの世界って“自分を殺せる奴”だけが出来る…

渡 部:あっ、でもそうかもしんないですね。それもあるかもしんないですね。

松任谷:だから、バカにされたりするのだけれど、それが出来る奴っていうのは相当人格というか、なんか人間、人間…

中 井:(人間)万事塞翁が馬?

松任谷:“人間力”だ。人間力の高い奴じゃないと出来ないのかなあ?と。だってあそこで必ず「さん付け」では呼ばれないでしょ?

渡 部:そうですね。例えばお笑いの人がトーク番組で役者さんとかモデルさんを招いて、「いやぁー凄い仕事ですね、僕なんて全然」っていうスタンスでやって、全然「僕なんて」って言ってる人の方が稼ぎがあるんですよね。だからそれが「ざまあみろ!」と思いますけどね。お笑いの一番かっこいいとこですよね。

松任谷:それが美意識だ。

渡 部:美意識っすね。だからもう、その時は「ざまあみろ!」と思いますけどね。もっと言うと若いアイドルとか女優さんが「出川さんなんて気持ち悪い」って言ってるお前の100倍稼いでたりするんですよ、出川さんが。だからそれが痛快ですよね、見てて。もう「ざまあみろ」ですよね。

松任谷:あぁー。

渡 部:お前がそんな言ってる出川さんの方がいくら稼いでるし、どんだけいい思い人生でしてる。いいもん食って、美人と遊んで、っていうのを考えるともうニヤニヤしちゃいますね。

他ジャンル、もっと言えば世間の一部からも下に見られがちなお笑い芸人という職業。
表面上はそんな扱いを甘んじて受け入れながらも心の中では「ざまあみろ!」と。
かっこいい!ROCKですw


◆苦労や汗を見せないと世間は認めてくれない

渡 部:なんか今、特に昨今は全部をさらけ出さないとお茶の間が認めてくれないふうになったんですよね、お笑いも。

松任谷:バレるんですよね。

渡 部:バレるし、人間力がないと…もう許してもらえないというか。もうほんとにオープンなエンターテイメントになってるんで、出来ない事とかダメな事だったり苦手な事も、傷口をバンバン見せていかないと…もう多分やってけないですね。だから芸人さんが結構みんなもういい歳じゃないですか?僕も今年40になるんですけど、若手なのに。世間様が若いうちはやっぱ認めてくれないんですよね。説得力も含めてなんですけど、「あいつこんなに苦労してるな」とか「あっ、意外と年食ってんだ」とか「芸歴こんだけあるんだな」とか「こんな貧乏時代があったんだな」とか…じゃないともうなんか…

松任谷:背景が必要って事?

渡 部:背景というか、苦労とか汗が見えないと、ちょっともう世間様が見てくれないですね、今ね。

松任谷:芸人も?

渡 部:はい。特にお笑い芸人は。

松任谷:ほんとに?

渡 部:今20代のお笑い芸人って全然いないの、知ってます?

松任谷:知らない。

中 井:みんな30代なの?あの人達?あの人達っていうか。20代に見える、みんな。

渡 部:例えばじゃあオリエンタルラジオって若手のホープじゃないですか?もう30ですからね。

中 井:あぁー、そうなんだ。

渡 部:やっとですよね。彼らを例に取ると分かりやすいのは、1回、ま、凄く売れて、落ちたっていう事でもう世間様が認めてくれるというか。苦労をちゃんと見せているので。

これは結構納得な話で。
お笑い芸人も単純に面白ければいいというんじゃなくて、芸の蓄積、更には人間としての蓄えが必要とされるようになったなと。
その“人間力”の部分が説得力にもつながるし、そこが認められた芸人さんは消えないと思いますね。
だから若手の高齢化というのはここも関係してる気がします。
こればっかりはキャリアも年齢も積み重ねないと付いてこない所だと思うので。



◆トークは引き出しを開けるスピード芸

松任谷:いやもうどっから切っても色々大丈夫ですね。

中 井:うん、そうですね。どの方面から切っても何でも渡部さんは答えてくれる。

渡 部:あ、ほんとですかね?

松任谷:よく番組にサイコロみたいなのがあって、こんな話とかあんな話とかってさせられるのってあるじゃないですか?鍛えられてるもんね。

渡 部:まぁそうですね。特にお笑いの先輩とか同期もそうですけど、その引き出しを開けるスピード芸なんですよね。だからその場で思いついた事を話してるように見えて、あれも全部経験則というか。なので、それはもう鍛えられたというかそこ鍛えないと、そうですね、バラエティ番組呼んでもらえないかもしれないですね。

松任谷:予習しますか?

渡 部:めちゃめちゃします。

中 井:へぇ〜。

渡 部:僕はもうその場でドンって丸腰で出ていったら何も出来ないんで。しますね。

松任谷:うーん。そこの丸腰な所見てみたい。

渡 部:ね〜、そこも課題なんですよ。僕はスキがないって言われちゃうんでもう可愛くないんですよね。もっとちゃんとスキを見せたり、僕もっと恥かいたりみっともない部分をもっと見せないといけないんですよね。もう壁ですね、今僕そこが。

引き出しを開けるスピード芸といってもまずその引き出しに何の話も入ってなかったらダメなわけですがw



◆暴露という名のプロレス

松任谷:自分の、本当は話しちゃいけないような事を、誰かにどの程度しゃべりました?今まで。

渡 部:その(仲の良い)後輩達は全部だいたい話してるんですけど、例えば恋愛の事とか、全て。でも「渡部さんの暴露ネタないですか?」ってテレビに呼ばれた時には線引はしてますね。

松任谷:出来るからしゃべるんだ?

渡 部:そうですね。だからそこが面白いですよね。今、恋愛暴露とか暴露系の企画が渦巻いてますけど…

中 井:多いですよねぇ。

渡 部:あそこはもうプロレスですよね、ちゃんと。ほんとに暴露されても。

松任谷:“プロレス”か。いい表現ですね。

渡 部:エンターテイメントですね、完全に。だから俺らも言われてもいい事も「ちょっと言わないでよ松任谷さん!」ていうのをしなきゃいけない。やっぱ技は受けないと。

中 井:そうですよね。

渡 部:全然言ってほしい、なんだったらおいしくなるような事でも「いやそれ言わない約束でしょ!」みたいな。「これ台本になかったじゃん!」とか。自分でネタ提供してたりしますからね。これ言っちゃうとアレですけど、『恥ずかし写真』なんて本人が持ってこなきゃ過去の写真なんてテレビで出ようがないじゃないですか?

中 井:ハハハハハ(笑)ま、そうねぇ。

渡 部:「実家からお借りしてまいりました」「えっ?知らないよ!」のわけないんですよ。

松任谷:面白い。

渡 部:だからこれはまあね、今視聴者のみなさんたぶんその辺敏感で気付いてらっしゃいますけど。意外と、うん。

プロレスという表現を嫌う方もいらっしゃるかもしれません…。
テレビ好きの人はこういう演出の裏側を既に察しているでしょうが、当事者が電波に乗せて語るというのはなかなか珍しいですよね。



◆ディレクター渡部

松任谷:渡部さん今みたいな発想からして、将来制作側になるって事あります?

渡 部:もう制作の方に近い感覚だと思いますけどね。

松任谷:今もね。

渡 部:だからディレクターが向いてるって凄く言われますね。作家タイプでもないし、プレイヤータイプでもないし。

松任谷:もしじゃあ渡部さんが中井さんをゲストに迎えて3分で…

渡 部:中井さんを招いて3分?

松任谷:3分で面白い、今までの中井さんでない物を引き出せって言ったらどんな話をしますか?

渡 部:え〜と…旦那の悪口とかですかね?3分間言わせる。これは悪い事をここで言って、全部吐き出して、また明日からの夫婦関係にしてくださいみたいな。

中 井:なに下向いてしゃべってんですか?(笑)

渡 部:あの、いや今のテレビってそういうとこあるじゃないですか?なんか毒を出すだけ出して、でも明日から頑張ろうみたいな。あんなの嘘なんですけど。

松任谷・中井:アハハハハハ(笑)

渡 部:だから旦那のイメージが…一番中井さんの素敵な所って、家族が見えるじゃないですか?松任谷さんもそうですけど。それって凄く武器なんですよね。僕が、例えば彼女とかおふくろの話するより、お二方がした方が。

中 井:あー、なるほどね。でも実害も凄くかかるよね?

渡 部:実害もありますけどね。うーん。でも「こんだけ悪く言えるって事は仲が良い証拠ですよ」っていうフレームにしちゃうんですよ。「言えないって事は中井さん上手くいってないでしょ?」っていう演出にしちゃうと、本音を言わざるをえないし、悪く言うしかないんですよね。

中 井:なるほどね、そうやって追い込むわけね。

渡 部:まぁそうすね、追い込みですね。

中 井:追い込みだよね。

松任谷:それで上手くいかずに、例えば相手がちょっと不快な顔をした、中井さんが不快な顔をしました。したらどうします?

渡 部:そう、もう電波に乗せようとしますね、やっぱり。

中 井:不快な顔をしてる私を見せるんだ。

渡 部:だから「お前が損するぞ」っていうふうに持っていきますね。

中 井:うぅ〜わぁ〜嫌だ、テレビの事凄い分かってますね。

渡 部:ヘヘ(笑)そういう事で、本当はそういう事で一番人間性を見たいんですよ。追い込んで。

◆お笑いとは?

松任谷:だんだん深い話になるようだけど、“お笑い”って何?

渡 部:うわ〜、お笑いとは何か?うーん、え〜、やっぱり人を幸せにするもの、ですし、全てをやっぱり、どんなツラい事があったり、どんなひどい目に遭っても笑いに昇華するだけで凄く浄化されるんで、とんでもない事だなと思うんですけど。

松任谷:うん。

渡 部:どんなタクシーの運転手さんにムカついても、話したらスッと怒りが消えたり、どんなツラい女の子にフラれ方しても「いやこの間こんな事がありましてね」っつって笑ってもらえたら、ファッとそのツラい思い出が浄化されるんですよね。だから笑ってもらえるって事が、こんなに素晴らしい事なのかなと思いますけどね。

松任谷:でもそれは真実ですよね、確かに。

“笑いに昇華するだけで凄く浄化される”なんか韻を踏んでいるようでw
でもいい言葉ですね。
そしてお笑いは素晴らしい!



渡部さん自身が「こんな色々いろんなテレビのからくりを僕しゃべんないです、よそで」「これはだってほんとは言っちゃいけない話ですから」と語っていた通り、お笑いと関係ない番組だからこそ引き出された内容だったと思います。